雨だと思ってた


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CinemaSort くらげの漫才 6HOPS 芸能ニュース検定

このサイトについて

こんにちは。はじめまして。
このサイトでは、僕が高校で学んだプログラミングの成果を少しだけ公開しています。
いくつかの小さなツールや実験的な作品がありますが、どれも大したものではありません。
ただ、自分が何かを「つくった」という証拠を、どこかに残しておきたかっただけです。

今、僕はスウェーデンのヨーテボリに住んでいます。
10年前に父を亡くし、去年、母が突然いなくなりました。
それで、母方の祖父母が暮らすこの街に引っ越してきたんです。
ヨーテボリという地名を初めて聞いたのは、小学生の頃でした。
母がよく話してくれたんです。

母の話すヨーテボリは、いつもどこか夢のようでした。
「朝になると、港の霧が町全体を包むの。まるで、世界が一度白紙になるみたいに」
「路面電車が通るとね、窓の外の空気まで少し震えるのよ。音じゃなくて、空気そのものが鳴るの」
そんな風に、彼女は決まって少し遠くを見ながら話していました。

僕はその街を一度も見たことがなかったのに、母の言葉を聞いているうちに、
まるでそこに自分の幼少期の記憶があるような錯覚を覚えるほどでした。
母が描くヨーテボリには、いつも風の匂いがあったんです。
それは潮の香りとも違い、森の中で雨上がりに立ちのぼる湿った空気とも違いました。
彼女が話すとき、その匂いが部屋に流れ込んでくる気がした。
まるで、誰かが遠くから部屋の窓を少しだけ開けているような、そんな感じでした。

けれど不思議なことに、母は祖父母のことをほとんど語りませんでした。
話題に出しても、いつもすぐに別の話にすり替えるんです。
あるとき、僕が「おじいちゃんとおばあちゃんってどんな人?」と聞いたら、
母は少し間をおいて、「優しい人たちよ」と答えました。
でもその後に、紅茶のカップを見つめたまま小さくつぶやいたんです。
「でも、人は優しさで人を縛ることもあるのよ」

母は「神頼み」という言葉を嫌っていました。
「何かを信じることはいいけど、頼るのは違うの」
「頼るって、裏返せば服従なのよ」
その言葉の意味を当時の僕は理解できませんでした。
けれど今思うと、あれは祖父母の信じていたもののことを指していたのかもしれません。

母が失踪した夜のことを、僕はあまり覚えていません。
翌朝、家の中は妙に静かで、空気が固まっているように感じました。
彼女の部屋には、コートも財布も置いたままでした。
机の上にあった家族写真だけが消えていて、
窓際に白い粉のようなものが少しだけ落ちていました。
それが何だったのか、誰も教えてくれません。

祖父母の家に来てから、僕はその静けさを何度も思い出します。
二人はとても優しくて、僕を本当の孫のように扱ってくれました。
祖母は「食べなさい、食べなさい」と笑って、温かいスープをよそってくれるし、
祖父は夕暮れになると窓辺に立ち、海のほうをじっと見つめていました。
「風が変わる音がする」と言うんです。僕には何も聞こえませんでした。

祖父母の家の中には、少し奇妙なものがあります。
壁に掛けられた、幾何学的な模様の布。
古い聖書のようでいて、どこか違う言語の本。
夜、廊下を歩くと、奥の部屋から小さな声が聞こえることがあります。
祖母が何かを祈っている声。
けれどその祈りは、僕の知るどんな言葉にも似ていません。

先日、祖母が僕に言いました。
「あなたのお母さんは、風を信じられなかったのね」
意味がわからず聞き返すと、祖母は笑って「もういいの」とだけ言いました。
それから、「でもあなたはきっと、大丈夫」と。
そのとき、窓の外で急に風が鳴りました。
母の話していたあの風の音に、少しだけ似ていました。

この街の朝は、母の言葉の通り、霧で包まれています。
白い世界がゆっくりと形を取り戻すたび、
僕は母の話していた"ヨーテボリ"が、同じ名前の別の場所だったのではないかと思うようになりました。
あの人の語る街は、きっと現実の中にはなかった。
あるいは、現実とほんの少しだけ重なった、もう一つの層。

祖父母は、夜明け前に長い祈りを捧げます。
その声を聞いていると、
僕の中で何かが微かに震えるのを感じます。
それが懐かしさなのか、恐怖なのか、自分でもよく分かりません。

母が最後に消えた夜、夢の中で彼女は僕に言いました。
「風が向きを変えるとき、すべての形は一度だけ正しくなるの」
その言葉の意味を、僕はまだ知らないままです。
でも祖父母の祈りの言葉の中に、ときどきそのフレーズと似た響きが混じっている気がします。

このサイトを作ったのは、ただ自分の手で形を残したかったからです。
でも最近は、それが僕自身の意志なのか、
誰かが"形を通して"僕に何かを記させているのか、
ときどき分からなくなるんです。

母が語ったヨーテボリは、光の中に消える街でした。
僕の知るヨーテボリは、祈りの中から始まる街です。
どちらが本物なのか、それを知っているのは――たぶん、もうこの家の誰かだけです。

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